煙突・タンクの全周点検を1枚の展開図に ─ ぐるりと撮った写真を「開いて」見る
煙突やタンクの点検は、裏側が見えない・写真が何十枚にも分かれる・報告書で位置を示しにくい、の三重苦です。円筒は長方形に、先細りの煙突は扇形に「開く」展開図の考え方と、写真から展開画像ができるしくみ、赤外線の展開画像で分かること・分からないことを、実際の煙突の例で図解します。
この記事の要点
- 円筒形の構造物は点検しにくい。一度に半周も見えず、写真は何十枚にも分かれ、報告書で「どこの話か」を伝えにくい
- 答えは昔からある「展開図」。円筒は長方形に、先細りの煙突(円錐台)は扇形に、紙のように歪みなく開ける
- 写真から展開画像を作れる。3Dモデルを輪切りにして太さの変わり方を測り、形を決めてから開く
- 赤外線の展開画像は手がかり。全周の温度分布を一望できるが、模様の理由は塗装・日射・映り込みも疑う

「その錆、どこでしたっけ?」─ 円筒形の点検が難しい3つの理由
ビルの外壁なら、窓や角が目印になります。「3階の左から2つ目の窓の下」と言えば、だれでも同じ場所を指せます。ところが煙突やタンクになると、とたんに話が難しくなります。
1. 一度に裏側まで見えない。 円柱を外から見ると、手前の半分弱しか見えません。しかも端に近いところほど斜めになって、ひびや錆の幅は細く写ります。全周を確かめるには、ぐるりと回って何度も撮るしかありません。
2. 写真が何十枚にも分かれ、位置関係が分からなくなる。 煙突の壁はどこも似た色・似た質感で、角も窓もありません。撮影直後は覚えていても、事務所に戻って写真を並べると「この錆汁と、さっきの錆汁は同じもの?」という状態になりがちです。
3. 報告書で位置を示しにくい。 平面図に矢印を描き、「北東側、高さ約15m付近」と文章で補うのが精いっぱい。読む側は、頭の中で煙突を回しながら場所を想像することになります。
高さ6mを超える煙突は、建築基準法上「工作物」として扱われ、建てるときに確認申請が必要になります(建築基準法施行令 第138条)。工場や病院、銭湯、学校などには、こうした背の高い煙突が今も数多く残っています。
昔からある答え ─ 「展開図」で考える
この悩みには、実は昔からの答えがあります。展開図です。板金で筒やダクトを作るとき、職人さんは立体をいったん平らな型紙に描き起こします。円筒なら長方形、先の細い筒なら扇形の型紙です。
数学の言葉でいうと、円筒や円錐は可展面(かてんめん)と呼ばれ、伸ばしたり縮めたりせずに平面へ開けます。逆に、地球儀を1枚の地図にすると必ずどこかが歪むように、球面は歪みなしには開けません。
紙の筒に縦にハサミを入れて開くと、横幅が周の長さ、縦が高さの長方形になります。先細りの煙突(円錐台)を同じように開くと、上の周が短いぶん上の弧も短い扇形の帯になります。画像の左右の端は、もともとつながっていた切れ目どうしです。
ぐるりと撮った写真が、1本の帯に並ぶ
展開図の便利さは、点検写真に当てはめるとよく分かります。煙突のまわりを回りながら撮った写真は、どれも周の一部しか写していません。それを展開図の上に置き直すと、1本の帯の上に順番に並びます。
方位も帯の上の位置として読めるようになります。切れ目を北に置いた展開図なら、「北から東へ4分の1周、高さ15m」は帯の横4分の1、下から15mの場所です。場所を言葉で説明するかわりに、展開図に印をつけて渡せるようになります。
写真から展開画像ができるまで
では、ばらばらの写真からどうやって展開画像を作るのでしょうか。大まかな流れは次のとおりです。
- 煙突のまわりを一周、重なりを持たせて撮る(高さ方向にも何段か)
- 写真から3Dモデルを作る(写真から3Dモデルができるしくみ)
- 軸と太さを推定する
- 推定した面に写真を貼り、切れ目で開く
ポイントは3つ目です。展開の「型紙」を正しく作るには、煙突がどちらを向いていて、どの高さでどれくらいの太さかを知る必要があります。
CRITIR の場合、まず軸のおおよその向きを撮影時のカメラの姿勢から決めます。ドローンのカメラは左右の傾きを水平に保つので、全部の写真の「横方向」に直交する向きが鉛直になる、という性質を使います。
次に、3Dモデルの表面を軸に沿って何十枚にも輪切りにし、断面ごとに円を当てはめます。はしごや周囲の屋根のように円から外れた点は、断面ごとに捨てられます。こうして得た「高さごとの半径」の並び方で形を決めます。
- 半径がほぼ一定 → 円筒として、長方形に開く
- 半径が高さに対して直線的に変わる → 円錐台として、扇形に開く
- どちらにも乗らない → 展開できない形として知らせる
最後に、決めた面に写真の画素を貼っていきます。3Dモデルがあるので、手前の付属物の陰になって本当は見えていない場所に、別の物の色を貼ってしまうことも避けられます。
先細りの煙突は、なぜ扇形のまま開くのか
背の高い煙突は、たいてい上に行くほど細くなっています。これを無理に長方形へ押し込むと何が起きるでしょうか。
周の短い上のほうは横に引き伸ばされ、周の長い下のほうは縮みます。今回の例の煙突で計算すると、長方形に押し込んだ場合は上端で約1.25倍、下端で約0.85倍に横の縮尺が狂います。同じ大きさの剥がれが、上では大きく、下では小さく写ってしまうわけです。
扇形のまま開けば、どこで測っても縮尺は同じです。見た目は少し不思議でも、長さや面積をそのまま測れる展開図になります。
実例 ─ 町の煙突を開いてみる
ここからは、実際の煙突で作った展開画像を見てみます。ドローンで煙突のまわりを撮影し、3Dモデルを作りました。

これを開いたのが次の2枚です。左が可視、右が赤外線の展開画像で、上がわずかにすぼまった扇形になっているのが分かります。

まず目に入るのは、同じ文字が2回並んでいることです。煙突の周の2か所に書かれた同じ文字が、展開図では左右に並びます。写真では煙突の縁で斜めにつぶれて写る文字も、展開図ではどちらも正面から見たように並びます。
可視の展開画像では、はしごに沿って帯の下から根元まで続く錆汁の筋、帯状の塗装の傷み、網の目のような細かなひびが、位置関係を保ったまま一望できます。写真を1枚ずつめくっていたら、「この筋は上から下まで1本につながっている」と確かめるだけでも一苦労です。


赤外線で見ると、何が分かる? 何が分からない?
赤外線の展開画像は、煙突の全周の表面温度を1枚で見せてくれます。ただし、模様が見えることと、その理由が分かることは別です。今回の例が、ちょうどよい教材になります。
この煙突の「熱い点」の正体は?
赤外線の展開画像で明るく浮かぶ丸い点は、可視と見比べると黒い文字の位置とぴったり重なります。黒い塗料は日射をよく吸うので、文字の部分だけ表面が温まっていると考えるのが自然です。中央の明るい縦の筋も、錆汁とはしごの位置に沿っています。色の濃い錆汁が日射を吸っている、金属のはしごが周囲の熱を映し込んでいる、などが考えられ、赤外線だけでは決めきれません。
このように、表面温度は塗装の色、日射の当たり方、金属の映り込みでも変わります(くわしくは放射率と反射温度の話)。可視と赤外線を同じ展開図の上で重ねて見られると、「この熱い点は文字だ」とすぐに分かり、早合点を防げます。
そのうえで、赤外線が手がかりをくれる場面もあります。
- 使用中の煙突: 排ガスで内側が温まっていると、外面の局所的な高温が内側のライニング(内張り)の損傷や排ガスの漏れを示すことがある、とされています
- コンクリートの外面: 日射で温まったときに浮いた部分がこもった熱で温かく写る、という外壁調査と同じ原理が使えます(外壁赤外線調査の撮影時間)
- タンク: 内容物と上の空間で温まり方が違うため、日射のある日には外から液面の高さが見えることがあります
いずれも「ここを詳しく見るべき」という目星をつけるための情報です。温度の異常を見つけたら、近接目視や打診など別の方法で確かめる前提で使ってください。
古い煙突の内側には、石綿(アスベスト)を含む断熱材が使われている例があり、劣化による飛散について厚生労働省が留意事項を示しています。石綿の有無や内側の断熱材の状態は、外から撮った写真や赤外線画像では判断できません。専門の調査を受けてください。
うまく開けない形もある
展開図の考え方には、はっきりした限界があります。紙のように歪みなく開けるのは、円筒と円錐(円錐台)の仲間だけだからです。
| 形 | 展開 | 理由 |
|---|---|---|
| まっすぐな円筒(タンク・サイロ・円形の建物) | 長方形に開ける | 半径が一定 |
| 先細りの煙突 | 扇形に開ける | 半径が高さに対して直線的に変わる |
| とっくり型・冷却塔のくびれた形 | 開けない | 半径が曲線的に変わり、歪みなしに平らにできない |
| 球形のタンク | 開けない | 球面は可展面ではない |
| 角柱の煙突 | 展開図にはしない | 平らな面の集まりなので、面ごとの壁面オルソで扱う |
形がまっすぐでも、全周がひととおり撮れていないと形を推定できません。隣の建物に近くて一部が撮れない煙突では、どこまで撮れているかを先に確かめる必要があります。
一方、円形の建物の各階にバルコニーや庇(ひさし)が張り出しているような形は、張り出しの断面だけを除いて壁の形を推定できます。
撮影のときに気をつけたいこと
展開画像の出来は、撮影でほぼ決まります。
- 全周を撮る: 一周回りきる。裏側が狭くても、そこを飛ばすと展開できない
- 高さ方向にも段を分ける: 背の高い煙突は、下・中・上と何周かに分けて撮る
- 写真どうしを重ねる: 3Dモデルを作るために、隣の写真と十分に重なるように
- 実寸の手がかりを残す: 長さを測るなら、GPS付きで撮るか、長さの分かる部分を1か所測っておく
最後の点は見落とされがちです。写真だけでは大きさが決まらないため、実寸で測りたいなら手がかりが要ります(CRITIR では スケール設定 で既知の長さを1本登録できます)。
CRITIR で煙突・タンクを開くには
ここまで紹介した展開画像は、点検ソフト CRITIR の「展開オルソ」で作ったものです。
- 撮影した写真から3Dモデルを作り、円筒・円錐台を自動で推定して全周を1枚に開きます
- 推定した円が対象の輪郭に乗っているかを上面図で確かめてから生成できます
- 可視と赤外線の展開画像を同時に作れます(可視とサーマルのペアで撮ったセット)
- 展開画像の上で、長さ・面積を実寸で測定できます
操作の手順は 展開オルソ(円筒・円錐台)、前提となる3Dモデルは 3Dモデル の章にまとめています。展開オルソは PRO プランの機能です。製品の全体像は CRITIR 製品ページ をご覧ください。
よくある質問
- 煙突の全周を1枚の画像にまとめることはできますか?
- できます。煙突のまわりをぐるりと撮影した写真から3Dモデルを作り、煙突の軸と太さを推定して、その面に写真を貼ってから縦に1本切れ目を入れて開きます。太さが一定の円筒は長方形に、先細りの煙突(円錐台)は扇形の帯になります。横方向が周の長さ、縦方向が高さなので、ひびや錆汁が「周のどのあたりの、どの高さか」を1枚で示せます。
- 先細りの煙突を長方形に展開してはいけないのですか?
- 長方形に押し込むと、周の短い上のほうほど横に引き伸ばされ、下のほうは縮みます。場所によって縮尺が変わるため、展開図の上で測った長さや面積が実寸と合わなくなります。上の周が短いぶん上の弧も短い扇形のまま開けば、どこで測っても縮尺は同じです。
- 赤外線で煙突を撮ると内部の劣化が分かりますか?
- 手がかりにはなりますが、赤外線画像だけで内部の状態を断定することはできません。使用中の煙突では、外面の局所的な高温が内側のライニングの損傷や排ガスの漏れを示すことがあるとされています。一方で、塗装の色の違いや日射、金属の映り込みでも外面の温度は変わります。温度の異常は近接目視や打診など別の方法で確かめる前提で使ってください。
- どんな形の構造物でも展開できますか?
- 展開できるのは、太さが高さに対して一定の円筒と、直線的に変わる円錐台です。とっくり型や冷却塔のように太さが曲線的に変わる形、球形のタンクは、紙のように歪みなく平らに開くことが数学的にできないため対象外です。また、全周がひととおり撮影されている必要があります。
- タンクの外面点検にも使えますか?
- 円筒形の縦型タンクやサイロのように、軸がまっすぐで太さが一定または直線的に変わる形であれば、煙突と同じ考え方で全周を1枚に展開できます。赤外線では、日射の当たり方によって内容物の液面の高さが外から見えることがあります。
まとめ
煙突やタンクの点検が難しいのは、丸い物を、平らな写真と平らな報告書で扱おうとするからです。
- 円筒は長方形に、先細りの煙突は扇形に、歪みなく開ける
- 開いた展開図の上なら、全周のひび・錆・温度分布を位置関係ごと一望でき、報告書でも場所を示しやすい
- 赤外線の模様は手がかり。塗装・日射・映り込みを疑い、別の方法で確かめる
- とっくり型や球形など、開けない形もある
ぐるりと撮った写真を「開いて」見る。それだけで、円筒形の点検はずっと見通しがよくなります。
出典
- 建築基準法施行令 第138条(工作物の指定): e-Gov 法令検索
- 厚生労働省「煙突内部に使用される石綿含有断熱材に係る留意事項について」(平成24年): 安全衛生情報センター
- 可展面(Developable Surface): Wolfram MathWorld
- 使用中の煙突での赤外線による高温部の確認: Industrial Access, Industrial Chimney Inspections
- 赤外線によるタンク液面の確認: IRINFO.ORG (T/IR Systems), IR Imaging for Checking Tank Levels
公開日: 2026年10月7日 / 最終更新日: 2026年10月7日

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