外壁タイルの浮きはなぜ赤外線で分かる?昼と夜で逆転する理由と誤判定のワナ
赤外線調査で外壁タイルの浮きが見つかる原理を図解します。浮き部が昼は高温・夕方以降は低温に逆転する理由、温度差が出にくい条件(曇天・北面・影・風)、反射・色・材質・設備の熱などの誤判定の原因と見分け方、打診との関係まで、実際の赤外線画像を使って解説します。
この記事の要点
- 赤外線が見ているのはタイルではなく「温度差」。浮きの裏の空気層が熱をせき止めるので、浮き部だけ表面温度がずれる
- 昼は高温、夕方以降は低温に逆転する。熱の流れる向きが入れ替わるからで、その切り替わりの時間帯には差が消えて浮きが写らない
- 温度差は思ったより小さい。建築研究所の試験体では浮き厚1.0mmで0.4〜0.5℃程度。曇り・北面・影・風でさらに小さくなる
- 温度ムラ=浮きではない。反射・色・材質・設備の熱・影の境界を可視画像と見比べて消していき、残ったものを打診で確かめる

左は普通のカメラ、右は同じ壁を赤外線カメラで撮った画像です。左では「少し汚れたタイル壁」にしか見えないのに、右では中央に明るい帯がはっきり出ています。
では、この明るい帯は全部タイルの浮きなのでしょうか。答えは「それだけでは分からない」です。この記事では、赤外線で浮きが見つかるしくみと、浮きでないものを浮きと見誤るワナを、図と実際の画像で順にほどいていきます。
撮影の時刻選び(どの面をいつ撮るか)は、別記事 外壁赤外線調査はいつ撮る?方角別の最適な撮影時間を解説 で詳しく扱っています。この記事は「なぜそう写るのか」「どう見分けるか」に絞ります。
そもそも、赤外線カメラは何を見ているのか
物体は、温度に応じた強さの赤外線を表面から出しています。赤外線カメラはその強さを受け取り、表面温度の分布として画像にします。
ここで大事なのは、カメラに写るのは表面だということです。タイルの裏側が浮いているかどうかを、直接透かして見ているわけではありません。
浮きが見つかるのは、裏の状態が表面温度の差として表に出てくる時だけです。その差を作っているのが、浮きの裏にある薄い空気層です。
昼: 空気層が熱をせき止める
国土交通省のガイドラインは、浮きを「タイル、モルタル、コンクリート躯体などの異種材料の接着界面に発生する間隙」と定義しています。つまり浮き部の裏には、ごく薄いすき間(空気層)があります。
空気は熱を伝えにくい材料です。日射で壁が温められると、しっかり貼り付いた健全部は受けた熱をモルタルを通して奥の躯体へ逃がします。
一方、浮き部では熱の逃げ道が空気層でふさがれます。行き場をなくした熱が表面にこもり、浮き部だけが周りより高温に写ります。
夕方以降: なぜ低温に逆転するのか
ここからがこの記事の本題です。同じ浮きが、時間帯によっては周りより冷たく写ることがあります。
日が陰ると、壁は冷え始めます。このとき熱は、昼にため込んだ躯体の内側から、外の空気へ向かって流れます。熱の向きが昼と逆になるわけです。
健全部の表面には、躯体からの熱が次々に補給されます。ところが浮き部では、その補給が空気層でせき止められます。表面のタイルだけが取り残されて先に冷え、周りより低温に写ります。
空気層は「どちら向きの熱も通しにくい」だけで、昼と夜で役割を変えているわけではありません。変わったのは熱の流れる向きだけ。だから温度ムラの向きがそっくり入れ替わるのです。
ただし、これは熱の流れを単純化した模式的な説明です。実際に逆転がはっきり現れるかどうかは、壁の向きと日射の量、躯体の厚さや材料、気温の下がり方、風、浮きの厚さなどで変わります。夜になればどの壁でも必ず逆転する、というわけではなく、差が小さすぎて写らないことも珍しくありません。
高温から低温へ切り替わる途中には、浮き部と健全部の温度差がほぼゼロになる時間帯があります。図の点線のあたりです。ここで撮ると、浮きがあっても画像に何も写りません。「撮ったのに何も出なかった」が「浮きがない」を意味しないのは、このためです。
温度差は、思ったよりずっと小さい
建築研究所は、浮きの厚さを変えたタイル外壁の模擬試験体を屋外に置き、1年を通して温度と日射を測っています。
その結果、浮き厚1.0mmの試験体で浮きを検知できた時の健全部との温度差は、年間を通して0.4〜0.5℃程度でした。浮き厚0.5mmや0.1mmでは日射の影響が大きく、季節によって値が大きくばらついています。
報告は、温度差のばらつきの大きな原因は日射量で、浮きが薄いほどその影響が大きいこと、雲で日射が遮られると温度差が小さくなり検出に時間がかかることを挙げています。そして、薄い浮きを見つけるには時間をおいて複数回撮影する必要があると結論づけています。
カラーパレットで真っ赤に見える「はっきりした差」も、温度にすると1℃に満たないことは珍しくありません。だからこそ、次の章のような外乱に簡単に埋もれてしまいます。
温度差が出にくい4つの条件
浮きの温度差は「熱が流れている」時にしか生まれません。熱の流れが弱い条件では、浮きがあっても差が小さくなります。
| 条件 | なぜ差が出にくいか |
|---|---|
| 曇天 | 日射が遮られ、壁に入る熱が減る。建築研究所の試験でも、雲で温度差が小さくなり検出に時間がかかった |
| 北面 | 日射を受ける時間が極端に短い。赤外線調査は困難とされ、打診との併用が前提になる |
| 影 | 影に入った部分は温まりきらない。さらに影の境界そのものが、浮きと紛らわしい温度の段差になる |
| 風 | 表面の熱が風に持ち去られ、温度ムラがならされる。ガイドラインも風速を適用条件に挙げている |
国土交通省のガイドラインは、調査時の気象条件(天候・環境温度・風速など)、タイルの種類、撮影角度や離隔距離、軒裏・出隅・入隅のような赤外線が苦手な箇所を踏まえ、事前調査で赤外線に適さない部分を確認するよう求めています。調査前の降雨で壁が濡れていないかも、計画で考慮すべき項目です。
ドローン撮影ならではの「冷たい四隅」
建築研究所の報告では、ドローン搭載の赤外線カメラで、プロペラの吹き下ろしの風によって画像の一部が実際より低い温度で表示される現象(シェーディング現象)が確認されています。対策として、画像の四隅は使わず中心部分で解析できるよう撮影計画を立てることが挙げられています。画面の端ばかり冷たい画像は、壁ではなく撮り方を疑ってみてください。
誤判定のワナ: 浮きでなくても温度はムラになる
赤外線画像の温度ムラは、浮き以外の理由でもいくらでも生まれます。国土交通省のガイドラインも、浮きを判定する際は反射等の外乱の影響を取り除きながら分析することを求めています。
代表的なものを、ひとつずつ見ていきます。
1. 反射: ガラスや金属は「周りの景色」で写る
ガラスや金属、光沢のある面は赤外線をよく反射します。そのため、その物自体の温度ではなく、映り込んだ空や周囲の建物の温度で写ります。


可視画像でも、窓には夕焼けの空と向かいの家が映っています。赤外線でも同じことが起きているわけです。窓まわりで温度を読むなら、ガラスではなく枠や壁で読みます。放射率と映り込みのしくみは 赤外線カメラの放射率・反射温度とは? で詳しく解説しています。
2〜4. 色・材質・設備: 同じ壁でも温まり方が違う
同じ写真を、温度ムラの原因ごとに番号で示します。

- 1 窓ガラス: 反射。空を映して低温
- 2 基礎のコンクリート: 外壁材と比べてかなり高温。材料が違えば、熱のため込み方も冷え方も違います
- 3 外壁材の縦の継ぎ目: 一直線に明るい線。部材の継ぎ目や下地の位置に沿った規則的な形です
- 4 横一列に並ぶ明るい点: 等間隔の点は、留め付け金具など下地側の要素の位置と見られます
どれも「周りと温度が違う」点では浮きと同じです。しかし、原因が可視画像に写っているか、建物の構造に沿った規則的な形をしています。不定形に広がる浮きのムラとは、形が違います。
色の違いにも注意が必要です。濃い色の仕上げは日射を多く吸うので、同じ時刻でも淡い色の部分より高温になります。張り分けたタイルの色の境目がそのまま温度の境目になることがあります。
室外機・換気口・配管・室内の熱源などの設備の熱も、局所的な高温として現れます。ガイドラインが調査計画で「周辺建築物等からの放射熱の影響」を考慮するよう挙げているのも、同じ種類の外乱です。
5. 影の境界と日射ムラ
隣の建物や庇の影が壁を横切っていると、日なたと日陰の境目に温度の段差ができます。直線的にくっきり切れていれば影を疑うのが近道です。この問題は時刻選びと直結するので、詳しくは撮影時刻の記事に譲ります。
色の濃さで判定しない
もうひとつ、ありがちなワナがあります。表示範囲(どの温度からどの温度までに色を割り当てるか)で、同じ画像の見え方がまるで変わることです。


範囲を詰めれば、1℃に満たない差でも真っ赤と真っ黒に分かれます。逆に広げれば、本物の浮きも埋もれます。「色が濃いから浮き」ではなく、温度の値と形と位置で判断するのが基本です。
見分け方: 消去法で絞り込む
ここまでの話を、温度ムラを見つけた時に確かめる順番にまとめるとこうなります。
ポイントは、浮きを直接言い当てようとしないことです。説明のつく原因を順に消していき、どれにも当てはまらない不定形のムラだけを「浮きの候補」として残します。
冒頭の外壁に戻ってみましょう。赤外線画像に可視画像の輪郭線を重ねると、温度ムラと目地・横線・汚れの位置関係が読めるようになります。


この壁の可視画像には、横方向の白い筋状の汚れがいくつも見えます。こうした汚れや補修跡も温度ムラの原因になり得るため、ガイドラインは可視画像を組み合わせると汚れ・補修跡・陰影などが明確になり、判定がより正確になるとしています。高温域の中で、汚れとも部材とも関係なく広がる部分こそが、打診で確かめるべき場所です。
迷ったら、時刻か角度を変えたもう1枚
反射は見る角度を変えると動き、影は時刻が変わると動きます。浮きは壁に張り付いているので動きません。同じ場所を別の角度・別の時刻で撮った画像でも同じ位置に出るなら、浮きの可能性は高まります。建築研究所が薄い浮きに「時間をおいた複数回の撮影」を勧めているのも、同じ理屈です。
打診との関係: 赤外線は打診の代わりではなく相棒
2022年(令和4年)の告示改正で、定期報告の外壁調査の方法として、打診と同等以上の精度を持つ無人航空機(ドローン)による赤外線調査が明確化されました。とはいえ、打診が要らなくなったわけではありません(制度の流れは 12条点検の外壁調査に赤外線・ドローンは使える? で解説しています)。
ガイドラインは、本調査の前に同じ部位で打診と赤外線調査の両方を実施して、赤外線で浮きがどう見えるかを確かめること、そして検出が難しい部位は測定条件を変えるか打診で調査することを求めています。
二つの方法は、見ているものが違います。
| 打診 | 赤外線調査 | |
|---|---|---|
| 見ているもの | 叩いた時の音(下地との一体性) | 表面温度の差(熱の流れ方) |
| 得意なこと | 一枚ずつ確実に確かめる | 広い面を一度に見る。画像で記録が残る |
| 苦手なこと | 足場や高所作業が必要。結果が記録に残りにくい | 日射・天候・時刻・方位・外乱に左右される |
建築研究所の報告には、打診では広い範囲で異音が出たのに赤外線で浮きが検出できなかったケースが出てきます。引張接着試験をしてみると、タイルそのものの浮きは確認されず、躯体の中の空隙(じゃんか等)が原因と考えられました。打診で異音が出る部分には、タイルの浮きではないものもあるのです。
赤外線で広く当たりをつけ、怪しい所を打診で確かめる。北面や軒裏など赤外線が苦手な所は打診で補う。お互いの弱点を埋め合う関係と考えるのが実態に近いでしょう。
CRITIR で「見分ける」作業を速くする
ここまでの見分け方は、結局のところ可視画像と見比べる、表示範囲を詰める、別の写真と並べるの繰り返しです。赤外線画像解析ソフト CRITIR は、この往復を一つの画面で済ませられるように作っています。
- 可視画像とすぐ見比べる: 赤外線と可視の並列表示や、可視画像のクイック確認(V キー)で、反射・汚れ・設備が写っていないかをその場で確かめられます(ビューワー)
- 輪郭を重ねる: 可視画像の輪郭線を赤外線画像に重ね、温度ムラが目地や部材とどう重なっているかを見られます(赤外線画像解析)
- 表示範囲を壁に合わせる: Shift キーを押しながらマウスを動かすだけでコントラストを追い込めます。アラームで「何℃以上」の範囲だけを色で残すこともできます
- 同じ場所の別の写真を並べる: 画像やオルソ上の1点をクリックすると、その場所が写っている写真を一覧にでき、並べて見比べられます。角度や時刻の違う写真で「動くムラ」かどうかを確かめるのに使えます(同一地点検索)
- 測温パラメーターを後から直す: FLIR / DJI の画像では、放射率や反射温度を後から設定し直して温度を計算し直せます

撮影の時刻選びには、住所を入れるだけで面ごとの推奨撮影時間帯が分かる無料ツール CRITIR Thermal Planner も使えます。撮影時の環境条件の目安は 撮影 TIPS にまとめています。
対応機種・機能・料金は CRITIR 製品ページ をご覧ください。
まとめ
- 赤外線調査が見ているのは表面温度の差。浮きの裏の空気層が熱をせき止めることで差が生まれる
- 昼の加熱過程では浮き部が高温、日が陰った後の冷却過程では低温に逆転する。切り替わりの時間帯は差が消えて写らない
- 温度差は1℃に満たないことも多く、曇天・北面・影・風でさらに小さくなる
- 反射・色・材質・設備の熱・影の境界は、浮きと同じように温度ムラを作る。可視画像と見比べて消去法で絞り込む
- 赤外線で広く当たりをつけ、打診で確かめる。ガイドラインも両者の併用を前提にしている
出典
- 国土交通省「定期報告制度における赤外線調査(無人航空機による赤外線調査を含む)による外壁調査ガイドライン」(令和4年3月、掲載ページ)
- 国立研究開発法人 建築研究所「外壁調査における赤外線装置法の診断精度に及ぼす各種環境要因の定量的検討」(令和3年度に終了した研究開発)
- 日本アビオニクス「建物診断の原理(外壁)」
- 日本アビオニクス「用語集(放射率)」

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