赤外線外壁調査の報告書の書き方|ガイドラインの記載項目と、伝わる見せ方5つ
赤外線による外壁調査の報告書に何を載せるべきか、国土交通省「定期報告制度における赤外線調査(無人航空機による赤外線調査を含む)による外壁調査ガイドライン」の記載項目①〜⑨を原文にもとづいて整理します。あわせて、全体図で位置を示す・可視と赤外線を並べる・温度スケールを揃える・判定の根拠を書く・撮影条件を残す、という伝わる見せ方を図解と実例で解説します。
この記事の要点
- 報告書に載せる項目は、国交省のガイドラインに9つ挙げられている。建物の概要から、適用条件のチェックリスト、打診との併用による確認の結果、外壁調査結果図、熱画像と可視画像まで
- 見落とされやすいのは⑤⑥⑦。どこを赤外線で調べ、どんな条件で、打診と照らしてどうだったか。ここが「打診と同等以上の精度」で調べたことの裏付けになる
- 伝わる報告書には5つの型がある。全体図で位置を示す・可視と赤外線を並べる・温度スケールを揃える・判定の根拠を書く・撮影条件を残す
- 様式は自由。だからこそ、読み手が報告書だけで判断をたどれるかで組み立てる

「この写真、建物のどの面ですか?」 「赤くなっているところが浮き、ということでいいんですよね?」
報告書を納めたあとに、こんな問い合わせを受けたことはないでしょうか。撮影も分析も丁寧にやったのに、紙の上ではそれが伝わっていない。赤外線調査の報告書では、よく起こることです。
熱画像は、撮った本人には一目で分かる画像でも、現場を見ていない人には「色のついた写真」でしかありません。この記事では、まず何を載せなければならないかをガイドラインの原文で確認し、次にどう見せれば伝わるかを図解していきます。
報告書は、誰が読むのか
書き方を考える前に、読み手を整理しておきます。赤外線による外壁調査の報告書は、少なくとも次の人たちの手を通ります。
| 読み手 | 報告書から知りたいこと |
|---|---|
| 外壁調査実施者(建築士・特定建築物調査員) | 浮きの判定結果と、その判定を信頼してよい根拠 |
| 建物所有者・管理者 | どこが危ないのか、補修が必要な範囲はどれくらいか |
| 次回の調査者・改修工事の担当者 | 前回どこを、どんな条件で、どの方法で調べたか |
3つ目の読み手は忘れられがちです。外壁は数年ごとに調べ直すものなので、報告書は次の調査の出発点にもなります。「前回はこの面を赤外線で調べ、この部分は打診だった」と分かれば、次の計画は格段に立てやすくなります。
つまり報告書の役目は、結果を伝えることと、後から検証・再現できる記録を残すことの2つです。
ガイドラインが求める「記載すべき項目」
12条点検(建築基準法第12条の定期報告)の外壁調査で赤外線を使う場合、国土交通省の「定期報告制度における赤外線調査(無人航空機による赤外線調査を含む)による外壁調査ガイドライン」(令和4年3月)が実施要領になります。制度の全体像や、なぜドローンの赤外線調査が使えるようになったかは、12条点検の外壁調査に赤外線・ドローンは使える?で解説しています。ここでは報告書の部分だけを詳しく見ます。
ガイドラインは、赤外線調査実施者が作る報告書について「記載すべき項目」を次の9つと定めています(地上からの調査は3.7、ドローンによる調査は4.7)。
- 建築物概要(建築物名、所在地、構造・階数、竣工年、仕上げ材の概要、補修歴)
- 調査実施体制(調査会社名、調査責任者名等、資格等)
- 調査実施日、調査時の天候及び環境条件
- 赤外線装置: 地上からの調査では「設置箇所(配置図に記載)及び使用した赤外線装置の型式」、ドローンによる調査では「赤外線装置の仕様・性能」
- 調査対象の外壁面のうち赤外線調査を実施した箇所及びその他の方法で調査を実施した箇所
- 調査時の適用条件に関するチェックリスト
- 打診との併用による確認を実施した範囲、結果の明示
- 浮きと判定した箇所を明示した外壁調査結果図
- 熱画像及び可視画像
さらに「記載・添付が望ましい項目」として現地での作業フローが挙がっています。ドローンによる調査では、ドローン調査安全管理者がドローン飛行計画書を、調査計画の段階の内容と齟齬がないか確認したうえで報告書として添付します。
この9項目を、報告書の章立てに振り分けると次のようになります。
章立ては一例です。項目さえそろっていれば、ページの順番や組み方は作成者が決められます。
その先にある、もう1つの報告書
赤外線調査実施者の報告書は、それで終わりではありません。外壁調査実施者(建築士や特定建築物調査員)がこれをもとに外壁調査結果報告書を作り、次の3点を載せます。
- 外壁調査実施者の氏名、所持資格名(1級建築士あるいは2級建築士又は特定建築物調査員)及びその資格者番号
- 調査対象の部分
- 告示に示す判定基準に基づく判定
これらの報告書一式が建築物所有者等に提出され、所有者等が定期調査の結果を特定行政庁へ報告します。
特定行政庁へ提出する定期調査報告書そのものには、建築基準法施行規則で定められた様式(第三十六号の二様式)があります。調査結果表や図面・写真などの添付書類は、特定行政庁ごとに案内されています(例: 愛知県の定期報告様式のページ)。この記事で扱うのは、その前段にある赤外線調査の報告書です。
見落としやすい3つ: ⑤⑥⑦
9項目のうち、①②③④⑨は従来の調査報告書にもよく載っている項目です。抜けやすいのは⑤⑥⑦。そして、この3つこそが赤外線調査の信頼性を支える部分です。
⑤ 赤外線で調べた範囲と、そうでない範囲
ガイドラインは、軒裏・出隅・入隅などを「一般に赤外線調査が困難な箇所」として挙げ、事前調査で赤外線調査に適さない部分を確認するよう求めています。つまり、建物の外壁がすべて赤外線で調べられるとは限りません。
報告書では、どの範囲を赤外線で調べ、どの範囲を打診など別の方法で調べたかを図で塗り分けるのが分かりやすい方法です。「浮きが無い」のか「赤外線では調べていない」のかが、読み手に区別できるようになります。
⑥ 調査時の適用条件に関するチェックリスト
ガイドラインの本文には、チェックリストの様式例は付いていません。何を項目にするかは、ガイドラインが「適用条件」として挙げている観点を手がかりにするのが素直です。
- 気象条件(天候、環境温度、風速等)
- 建物条件(タイルの種類、建築物の形状等)
- 周辺環境(建築物からの放射熱の影響等)
- 撮影条件(赤外線装置、撮影角度、離隔距離等)
これを面ごと・撮影時間帯ごとに「確認した/該当なし/要注意」で記録しておくと、「この条件なら浮きは熱画像に現れうる」ことを読み手がたどれます。
⑦ 打診との併用による確認
ガイドラインは、本調査に先立って同一部位で打診と赤外線調査の両方を行い、浮きの検出状況を確認することを求めています。検出が難しいと判断された部位は、測定条件を変えるか打診で調査します。
報告書には、その確認をした範囲と結果を明示します。確認した部位の熱画像・可視画像と打診の結果を同じページに並べると、「この条件で、打診で浮きのあった箇所が熱画像にも現れていた」ことが一目で伝わります。
伝わる見せ方5つ
項目がそろっていても、読み手に伝わるとは限りません。同じ1箇所を載せた写真台帳を、2通りに描いてみます。
左のページも、間違ったことは書いていません。それでも読み手には4つの「?」が残ります。右のページは、その「?」を1つずつ先回りして埋めています。図の番号に沿って見ていきます。
1. 全体図で位置を示す
熱画像の1枚は、外壁のごく一部を切り取ったものです。それが建物のどの面の、何階の、どのあたりかが分からないと、補修の見積もりも次回の確認もできません。
ガイドラインが⑧で「浮きと判定した箇所を明示した外壁調査結果図」を求めているのは、この全体像のためです。立面図や外壁のオルソ画像(正面から見た1枚の画像)の上に浮きの範囲を描き、写真台帳の番号と図の番号を一致させると、台帳と図を行き来しながら読めるようになります。



2. 可視と赤外線を並べる
ガイドラインは用語の定義の中で、可視画像を熱画像と組み合わせると「熱画像で得られない情報(壁面の汚れ、補修跡、陰影等)」が明確になることがあり、熱画像の解析を行う際に調査結果の判定がより正確になる、と説明しています。ドローンによる調査では、可視画像も同時に撮影することとされています。
熱画像だけを載せると、読み手は「温かい範囲が浮きなのか、それとも汚れや影なのか」を判断できません。同じ箇所の可視画像を隣に置き、同じ位置に同じ印を付ける。これだけで、判定の説得力が大きく変わります。


3. 温度スケールを揃える
ガイドラインは熱画像を、赤外線放射エネルギー強度を見かけの温度に換算し、温度分布としてコントラストやカラーパターンに当てはめた画像、と定義しています。つまり、熱画像の色は「どの温度からどの温度までに色を割り当てたか」で決まります。
ここに落とし穴があります。多くのカメラやソフトは、画像ごとに温度の範囲を自動で決めます。すると、わずか0.4℃のムラでも、2℃の浮きと同じ色に見えることがあります。
報告書では、次の3つを守ると誤読が減ります。
- 熱画像には必ずカラーバーと温度の数値を添える
- 同じ面・同じ条件で比べる画像どうしは、表示範囲を揃える
- 面や時間帯で範囲を変えたときは、その範囲が分かるように示す
カラーパレットを途中で変えないことも大切です。ページごとに色の意味が変わると、読み手は毎回カラーバーを読み直すことになります。
4. 判定の根拠を書く
「浮きあり」だけでは、それが判定なのか推測なのかが分かりません。ガイドラインは浮きの判定について、立地条件や仕上げ材、撮影時の環境条件をあらかじめ整理し、反射等の外乱の影響を取り除きながら分析を行うことを求めています。その過程を、短くてよいので書き残します。
- 温度差: 周囲の健全部と比べて、どれだけ高い(低い)か
- 範囲: 形と大きさ(面積が分かれば数量にもつながる)
- 外乱の確認: 可視画像で汚れ・補修跡・影・映り込みが無いことを見たか
- 打診との照合: 打診との併用で確認した部位なら、その結果
浮きが温かく写るしくみはタイルの浮きはなぜ赤外線で見えるのか、映り込みや放射率による見かけの温度の変化は放射率と反射温度の記事で詳しく扱っています。根拠を書こうとすると、自然とこうした外乱を一つずつ消していく手順になります。
5. 撮影条件を残す
浮きの温度差は日射が作るので、同じ壁でも、撮った時間と天候で写り方が変わります。ガイドラインが③で天候及び環境条件を、⑥で適用条件のチェックリストを求めているのはこのためです。
写真台帳の1箇所ごとに、少なくとも次を残しておくと、あとから「この条件で浮きが見えるはずだったか」を検証できます。
| 残す情報 | なぜ必要か |
|---|---|
| 撮影日時と面の向き | 日射を受けていた最中か、受けた後か、まだ受けていないかが分かる |
| 天候・気温・風速 | 曇天や強風では温度差が出にくい |
| 撮影距離・角度 | 角度が浅いと反射の影響を受けやすい |
| 使用した赤外線装置 | 解像度や性能で、見える浮きの大きさが変わる |
面ごとに日射を受ける時間が違う点は、外壁赤外線調査はいつ撮る?で解説しています。
CRITIR のレポート機能で作れるもの
ここからは、私たちが開発している赤外線画像解析ソフト CRITIR のレポート機能を紹介します。先にお断りしておくと、CRITIR で作れば報告書の要件を満たせる、というものではありません。適用条件のチェックリスト、打診との併用による確認の結果、そして浮きの判定は、調査者が内容を作って載せる部分です。CRITIR が手伝えるのは、測定結果・画像・物件情報を差し込んでページを組み上げる部分です。







用意されているテンプレートは次のとおりです。
| テンプレート | 中身 | 出力形式 |
|---|---|---|
| 標準 | 表紙・調査概況・調査機材・概要・詳細票・集計表 | PDF / Word |
| 写真台帳A | 撮影箇所ごとに範囲図・赤外線・可視と備考 | PDF / Word |
| 写真台帳B | 1ページに2箇所。図面またはオルソ上の位置・赤外線・可視 | PDF / Word |
| 可視写真台帳 | 可視画像を中心に1ページ3〜4行 | PDF / Word |
| 劣化図 | オルソ画像や図面の上に劣化箇所を表示 | PDF / Word / DXF |
| 劣化数量積算表 | 種別ごとの劣化数量の集計 | PDF / Word / Excel |
この記事で挙げた見せ方との対応でいうと、次のような機能があります。
- 建物と体制: 調査概況のページに、所在地・構造・階数・竣工年・仕上げ材・補修歴を入力できます。調査機材のページには、画像の EXIF から検出したカメラ機種と解像度、調査責任者と資格が載ります
- 撮影条件: 撮影日時と位置情報から、最寄りの AMeDAS 観測所の天候・気温・風速などを取得できます(インターネット接続が必要)。観測所のデータなので、現地で測った値があれば併記するのが確実です。立地・仕上げ・日照の環境評価を5段階とコメントで記録する欄もあります
- 全体図で位置を示す: 詳細票や写真台帳に、オルソ画像・図面・3Dモデル上の撮影位置を載せられます。劣化図は DXF でも出力できます
- 可視と赤外線を並べる: 詳細票・写真台帳では、同じ測定の印を付けた赤外線画像と可視画像が並びます
- 温度スケール: 赤外線画像にカラーバーを表示でき、画像の外か上かを選べます。検査時に画像ごとに決めた表示範囲をそのまま使うこともできます
- 判定: 測定ごとの種別・判定・所見を、レポート画面のプレビューを見ながら直せます

社内の決まった書式がある場合は、テンプレートビルダーで行・列・ブロックを組み合わせて、独自の写真台帳を作ることもできます。操作の詳細はレポート作成のガイドをご覧ください。対応機種や料金は製品ページにまとめています。
よくある質問
- 赤外線による外壁調査の報告書には、何を書けばよいですか?
- 国土交通省のガイドライン(令和4年3月)は、赤外線調査実施者が作る報告書の記載すべき項目として、①建築物概要、②調査実施体制、③調査実施日・天候・環境条件、④赤外線装置(地上からの調査は設置箇所と型式、ドローンによる調査は仕様・性能)、⑤赤外線調査を実施した箇所とその他の方法で調査した箇所、⑥調査時の適用条件に関するチェックリスト、⑦打診との併用による確認の範囲と結果、⑧浮きと判定した箇所を明示した外壁調査結果図、⑨熱画像及び可視画像の9つを挙げています。現地での作業フローは記載・添付が望ましい項目です。
- 赤外線調査の報告書に決まった様式はありますか?
- ガイドラインは記載すべき項目を定めていますが、報告書のレイアウトや様式例は本文に付いていません。項目がそろっていれば、章立てや見せ方は作成者が決められます。なお、建物所有者等が特定行政庁へ提出する定期調査報告書そのものには施行規則で定められた様式があり、調査結果表・図面・写真などの添付書類は特定行政庁が案内しています。
- 写真台帳に赤外線画像だけを載せてもよいですか?
- ガイドラインは記載すべき項目として熱画像及び可視画像を挙げており、ドローンによる調査では可視画像も同時に撮影することとしています。可視画像は、汚れ・補修跡・陰影など熱画像だけでは分からない情報を示し、判定をより正確にするものとガイドラインで説明されています。同じ箇所の熱画像と可視画像を並べ、同じ位置に印を付けて載せるのが分かりやすい形です。
- 熱画像の温度スケール(カラーバー)は報告書に必要ですか?
- 熱画像の色は、表示範囲としてどの温度からどの温度までに色を割り当てたかで変わります。カラーバーと数値が無いと、読み手は色の差がどれだけの温度差なのかを判断できません。画像ごとに自動で範囲を決めると、わずかなムラも大きな異常と同じ色に見えることがあるため、比較する画像どうしは範囲を揃え、その範囲を画像に添えて示すのが確実です。
まとめ
赤外線外壁調査の報告書は、結果を伝えるだけでなく、その結果を信頼してよい理由と、次の調査につながる記録を残すためのものです。
- 載せる項目は、ガイドラインの記載すべき項目①〜⑨が基準
- 抜けやすいのは、赤外線で調べた範囲・適用条件のチェックリスト・打診との併用の結果
- 伝わる見せ方は、全体図で位置を示す・可視と赤外線を並べる・温度スケールを揃える・判定の根拠を書く・撮影条件を残すの5つ
様式が自由だからこそ、報告書は作り手によって大きく差が出ます。読み手が報告書だけで「どこを、どんな条件で調べて、なぜそう判定したか」をたどれるか。迷ったら、そこに立ち返ってみてください。
この記事は2026年10月時点で確認できたガイドライン・法令にもとづいています。定期報告の提出書類や様式は特定行政庁ごとに異なる場合があります。最新の内容は所管の特定行政庁で確認してください。
出典
- 定期報告制度における赤外線調査(無人航空機による赤外線調査を含む)による外壁調査ガイドライン(令和4年3月)(PDF) — 赤外線装置を搭載したドローン等による外壁調査手法に係る体制整備検討委員会(事務局: 一般財団法人日本建築防災協会)。1.3 用語の定義、2 実施者、3.2〜3.7、4.2〜4.7
- 定期報告制度における外壁のタイル等の調査について — 国土交通省
- 建築基準法施行規則(昭和25年建設省令第40号)第5条 — e-Gov 法令検索
- 定期報告の様式 — 愛知県(提出書類の案内の一例)
公開日: 2026年10月8日 / 最終更新日: 2026年10月8日

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